メキシコ

たくさんの興奮と熱気に触れた、2018サッカーW杯シーズン in メキシコ

メキシコシティ中心部にある広場(ソカロ)に設置された、パブリックビューイング会場の様子。メキシコvsスウェーデン戦の中継の際に筆者が現地にて撮影。

昨年2018年のFIFAワールドカップ開催期間は、絶賛メキシコに留学中でした、まそん (máscara-sonrisa)です。

1年間のメキシコ留学生活を通して、現地の人々について印象的だったことが幾つかあるのですが、まず、そのうちの1つが「(突発的な)出来事に対する臨機応変さ、柔軟な対応」という点。

例えば、電車やバス等で困っている人を見かけた時にはスッと手を差し伸べて手助けをするとか、災害時には積極的に助け合い、救援物資を送ったり瓦礫の片付けを手伝ったり、チャリティーイベントをやったりとか。

例をあげるとキリないですが、メキシコ滞在中は幾度となくこのメキシコの人々による「臨機応変さ、柔軟な対応」の場面を目にしました。*1

そして、もう1つ留学生活を通して興味深いと思ったのが、メキシコの人々の「とにかく、楽しむ時(楽しめる時)は全力で楽しむ!」という部分。

誕生日や何かしらの記念日の節目でしばしば行われる「フィエスタ」と呼ばれるパーティーや、季節の行事、さまざまな催し等々において垣間見られる人々の盛り上がる様子から、メキシコの人たちの「楽しむ時は思い切り楽しむ!」という雰囲気をよく感じていました。

さて前置きがすこし長くなりましたが、今回の記事では、そんなメキシコの人々に関して私が興味深く思った2点(「(突発的な)出来事に対する臨機応変さ、柔軟な対応」、「楽しむ時は全力で楽しむ(という雰囲気)」)両方を感じる場面が多々あった、メキシコでのFIFAワールドカップ2018期間中の出来事について書いていきます。

「サッカーW杯の期間に、メキシコで過ごすとこんな感じ。」という実体験録のようなものでもあります。

ワールドカップ期間中のメキシコの様子

まずサッカーW杯開催期間中のメキシコの様子*2ですが、言葉通り「ワールドカップ一色」になっていました。

サッカーメキシコ代表Tシャツを着た、チェーン系列のドラッグストア「Farmacia Similares(ファルマシア・シミラーレス)」のキャラクター・Dr. Simi(ドクトル・シミ)。店舗の前にて筆者撮影。

例えば、街中のあらゆるお店(スーパー、衣料品店、露店)でサッカーメキシコ代表のTシャツが売られるようになり、サッカーに関して疎い私でも「ああ、サッカーメキシコ代表のTシャツは緑が基調なんだなぁ。皆ワールドカップへの関心が高くなっているんだなぁ。」とわかるくらい、あらゆるところでメキシコ代表Tシャツを見かけるようになったり、

メキシコのビール「TECATE(テカテ)」の、2018ワールドカップ限定デザインが施された缶。中央にキリル文字で「ORIGINAL」と書かれているほか、ロシアを連想させるイラストが施されている。

はたまた、W杯やW杯開催地のロシアに関するイラストや、メキシコ代表のTシャツを着たキャラクターがプリントされた大手企業の商品(ビールとかスナック菓子とか)だったり店頭の広告だったりを見かけるようになったり、

ユカタン州メリダの空港内にあるカフェに設置されたテレビ

テレビが設置されているレストランやカフェ、スーパーでは、ワールドカップ期間中は常に試合中継の映像が流れていて、お客さん、店員共に立ち止まって釘付けになっている光景がしばしば見られたり。。。

こんな感じで、メキシコではサッカーワールドカップの開催中、いかに多くの人々の関心がW杯に集まっているのか見て取れる場面がたくさんありました。

ほかに、W杯期間中に見聞きしたメキシコに関する話題で印象に残ったのは以下の通り。

人工の地震が起きるほどの盛り上がり?

2018FIFAワールドカップにおけるメキシコにとっての初戦の相手はドイツだったのですが、結果は1-0でメキシコの勝利に終わりました。

前回(2014年)のW杯勝者であるドイツとの試合だったのもあってか、また2018ワールドカップの初戦だったこともあってか、多くの人々が見守っていたとされるこの試合。

↑ソカロ・パブリックビューイング会場における試合終了後の雰囲気

↑試合終了後、メキシコシティのレフォルマ通りから独立記念塔にかけて歩く、サッカーメキシコ代表Tシャツを着た人々の様子

首都のメキシコシティ中心部にあるソカロ広場や独立記念塔近くでは試合後、初戦をドイツ相手に勝利したことを喜ぶ人でいっぱいになったそうですが、気になるのはメキシコ代表選手がゴールを決めた時のエピソード。

ちょうどメキシコ代表のイルビング・ロサノがゴールを決めたタイミングの後で、メキシコシティにて人工的な”振動”が観測されたとのこと。

メディアによってはこれを「(試合を見ていた人々が、ゴールを決めた際に喜びで飛び跳ねたことが原因で起こった)人工的な地震」という表現で話題にしたりしていましたが、実のところ地震ではなく、あくまで地震計が感知した人的活動による振動であったのだそう。*3

しかしながら、実際は地震ではなかったものの、「メキシコシティでどれだけの人がメキシコのW杯初戦である対ドイツ戦に注目していたか、もしくは観戦していたか」を表すものとして、試合後の数日間ネット上などで話題になったりしていました。

企業では「W杯観戦タイム」を設ける動きも

私が実際に体験したわけではないのですが、FacebookをはじめとしたSNSにて、本来であれば勤務時間中であるものの、W杯にてメキシコ代表チームによる試合が行われる時間には作業や業務を中断し、社員全員や部署の人たち皆でテレビの前に集まって観戦をしていた、というような内容の写真や投稿をしばしば目にしました。(なんという柔軟な対応。。。)

やはり、それだけ皆さんワールドカップのことというか、メキシコ代表チームの行く末が気になっていたんですね。(なんとなく気持ちは理解できます。)

 

興奮と盛り上がりが最高潮に達した、韓国vsドイツ戦と「その後」

ソカロのパブリックビューイング会場

さて、いかにメキシコの人々がサッカーW杯で盛り上がっていたかをここまで紹介してきましたが、その興奮と盛り上がりが高まりきった動きが見受けられたのが、個人的にはメキシコ代表のベスト16進出がかかった試合であった、グループFの韓国vsドイツ戦だったと思っています。

ここでは、その韓国vsドイツ戦とメキシコとの関係と、試合後に見られた動きについて紹介していきます。*4

大まかな一連の流れ

まず2018年のW杯では、最初に各国の代表チームがグループA〜グループHに分かれていて、1グループあたり4チームが振り分けられて試合を行っていき、試合での勝ち点や得失点などによって決められるグループ内順位のうち上位2チームがベスト16に進むことができる、というルールで進められていました。

メキシコがいたのはグループFで、他の3チームは韓国、スウェーデン、ドイツ。

グループF代表チームのベスト16進出がかかった試合は「スウェーデンvsメキシコ」と「韓国vsドイツ」という組み合わせで、両試合ほぼ同じ時間帯に行われていました。

私はというと前者の試合をソカロのパブリックビューイング会場で観戦していて、結果としてはメキシコが0-3でスウェーデンに負け、メキシコのベスト16進出は同時間帯に行われていた韓国vsドイツの結果次第ということに。

スウェーデンvsメキシコ終了後、すぐにパブリックビューイング会場のモニターが韓国vsドイツの中継映像に切り替わり、すでにその時点で韓国が1-0でドイツに勝っていると知るやいなや大歓声が湧き上がり、言わずもがな皆の声援が韓国への全力応援に切り替わりました。(確か、この試合で韓国が勝てばメキシコのベスト16進出が決まる、という感じだったかと思います。)

そして、韓国の2点目が決まって会場は大盛り上がり、大コレア*5コールや”Corea, hermano, ya eres mexicano!”というコール(「同志の韓国よ、君はもうメキシコ人だよ!」という感じの言葉)が起こる中、そのまま2-0で韓国が勝利し、同時にメキシコのベスト16進出が決まったわけですが、その後の様子がまあ凄かった。

韓国大感謝祭の発生

「韓国は、メキシコのベスト16進出を決めてくれた救世主でありヒーロー」と言わんばかりに、韓国vsドイツの試合後、メキシコではあらゆる韓国大感謝ムーブメントが繰り広げられることになります。

そのうちの幾つかを紹介します。

(メキシコの)大手企業による韓国に関する商品のセール実施

Facebook上で見かけた、メキシコの航空会社アエロメヒコの広告。「今はメキシコから韓国へ行くのにもってこいの時機。愛してるよ韓国!(意訳)」と書いてある。ちなみに画像の方は、「ソウル行き(の航空券)が20%オフ!」と書いてあったり、機体にAEROCOREA(アエロコレア)と記載があったり。本当に仕事が早い。

まず、韓国製の製品のセールや、メキシコの大手企業による韓国に関する商品のセールの実施について。

画像にあげたような、メキシコの航空会社であるアエロメヒコによる韓国行き航空券のセールや、アマゾンメキシコによる韓国製品のセールなど見受けられました。(埋め込んだリンク先は西文の記事になります。)

在メキシコ韓国大使館でもお祝い

メキシコシティにある韓国の大使館前にも多くの人々が集まって韓国への感謝の思いを叫んだり、また大使も一緒に韓国の対ドイツ戦への勝利とメキシコのベスト16進出をお祝いしたみたい。

大量のコラ画像

  • 韓国=メキシコをドイツから守る英雄
  • メキシコ=韓国から守られる者

といった構図のコラ画像が大量に作成され、TwitterやFacebookで度々目にしました。(他にも色々な構図のものがありました。詳しく見たい方は、「memes corea salva a mexico」とGoogle画像検索するとたくさん見られます。)

いや本当に、相変わらずメキシコの方々の仕事が早いこと。そしてこの大盛り上がりっぷり。「さすがメキシコ。。。」と当時思いました。

 

さて、今回は2018年のサッカーW杯のシーズンをメキシコで過ごした筆者の体験談と、同時期のメキシコの様子について紹介しました。

本記事前半にて「サッカーに疎い」と言っていた筆者ですが、実際のところ2018年のワールドカップシーズンをどのように過ごしていたかといえば、色々な人がW杯を楽しんでいるのを見て「ああ、なんか楽しそうだなぁ。」と思ったのをきっかけに(ミーハー)、ちゃっかりメキシコ代表のTシャツを購入、メキシコが試合をする時には友人・知人とともにテレビの前で観戦していました。(前述のとおり、パブリックビューイングにも行きました。)

いかに、周りのW杯への盛り上がりが大きかったことか。。。

 

おまけ – メキシコの人々による東アジア諸国に関する認識について

「おまけ」と言いつつ、結構長くて、しかもあまり軽く扱える内容では無いのですが、本記事の後半で触れたグループF・韓国vsドイツ戦のあとに起きたこと(すでに触れた内容以外のこと)に関して、特に「メキシコの人々による、東アジア諸国に関する認識」という部分に焦点を当てつつ、実体験の話や感想を織り交ぜながらとりとめもなく紹介していきます。(まとまりに欠くというか、オチは無いです。)

既にTwitterのモーメントとしても、ほぼ同じ内容をまとめています。興味のある方は埋め込みリンクからどうぞ。(むしろそっちの方が見やすいかもしれない。)

ソカロでのパブリックビューイング観戦

すでに興奮と盛り上がりが最高潮に達した、韓国vsドイツ戦と「その後」」の中でも述べた通り、メキシコにとってベスト16へ進むか否かがかかった対スウェーデン戦ですが、筆者は友人(メキシコ出身者&日本からの留学生それぞれ数名)とともにソカロのパブリックビューイングで観戦していました。

スウェーデンが2点目を追加したあたりから、会場の人たちの雰囲気も若干「このままだとメキシコのベスト16進出が危うい。。。韓国頑張ってくれ。」という風になっていて、スウェーデンvsメキシコ戦と同じ時間に裏で行われていた韓国vsドイツの実況報告が流れてくるたびに、「韓国頑張れ〜」と人々が口にするような感じでした。

例に漏れず、私たち一行も同じく「韓国頑張れ〜」と呟いたりしていたのですが、その途中で周りから向けられる視線を少し感じるようになります。

スウェーデンvsメキシコが0-3で終わった後、パブリックビューイング会場の映像は韓国vsドイツの試合のものに切り替わり、会場にいる人みんなが全力で韓国を応援。そして韓国が2-0でドイツに勝った瞬間、メキシコのベスト16進出が決まり、私たち一行もたくさん喜びあっていたのもつかの間、たくさんの人たち(興奮で気分が高まった人や、やじ馬の人など)に囲まれました。

なぜなら、私たち一行の中の数名を占めていた日本からの留学生(私も含む)が、韓国出身の人々であると間違えられ、「韓国人のグループがあそこにいるみたい。そこに行って一緒にワイワイお祝いしよう!」と思われたみたいだったため。その後は、囃し立てる人々とともに皆んなで色々叫んだり、もみくちゃになったり、カオスでした。

少し経って、ある人は神輿のような感じで担がれてソカロ広場をそのままの状態(騎馬戦の騎馬のような状態)で走りまわされたり、ある人は隙を見てワイワイ盛り上がってる輪から抜け出したり、はたまたそのまま輪の中で盛り上がり続けている人もいたり。

一方の筆者は、もみくちゃになってカオスな状態になった後どうしたかというと、割と早々と輪から抜けまして、ただし一緒に来ていた人たちとは離れ離れになってしまったので、友人との連絡を試みながら会場の出口を目指して歩いていました。

すると、色々な人から「一緒に写真撮ってくれない?」と今度は声をかけられるように。(あとで再会した他の友人たちもそんな状態になってました。)声をかける人皆んなが多分、私たちのことを韓国出身の人だと思っているだろうことは容易に想像できたので、「私、日本から来た者ですが、大丈夫ですか?」と聞きつつ、撮影に応じていました。

東アジア諸国やその出身者に対するメキシコの人々の意識

ソカロでの出来事以外だと、下記のようなこともあったみたいで。

前の章で「在メキシコ韓国大使館にも、メキシコの人々がお祝いに行った」と紹介しましたが、おそらく同じようなノリでメキシコシティの中華街にも韓国vsドイツの試合後に人々が集まっていたたみたい。

ここまで読んでくださった方はもうお気付きかと思いますが、結構メキシコの人々の間ではあまり東アジア諸国それぞれの違いとかってそんなに認識されていないのですよね。

1年間メキシコに滞在していればなんとなく気づくことの一つではあるのですが、特に今回の韓国vsドイツ戦の後の出来事とかを見てみて、より一層実感したというか、より明らかになったなぁ、という感想を持ちました。

ただ、これに関してはある程度理解はできるから(特にメキシコと東アジアの国々は距離があるため、なかなかメキシコの人々にとっては東アジアのことを詳しく知る機会って無いだろうし、メキシコの人で東アジアそれぞれの国や地域の情報に詳しい人といえば、東アジアに興味を持っている人やこれらの地域に友人や親族がいる人くらいだろうな、というのはわかる。逆もしかりだから。)、私としてはこの韓国vsドイツの試合後の様子に関して「まあ仕方がないよね(苦笑い)。」と思ったような気がします。

あとは、逆の立場である時の場合を考えて、あまり知らない国・地域の人々と接したり何らかの関わりを持つ際は、常に相手を尊重したり、その人のアイデンティティに気を配るようにしたいなぁ、とざっくりではあるけど思ったりしました。

以上、おまけでした。

 

後注

*1. 特に行政機関や銀行、対企業相手の手続きの場面では、これに該当しない場合(臨機応変さや柔軟な対応が全く見られないこと)も多かったりするようです。

*2. ワールドカップ期間中及びその前後は、筆者はメキシコシティに滞在していた時間が長かったので、本記事では主にメキシコシティの様子について書いています。

*3. SSN(2018)を参照。参照元の報告書の中では、たくさんの人が集まったソカロ広場や独立記念塔に一番近い地震計の観測地点の2017年7月16日19時〜6月17日13時までの記録(のグラフ?図?)を紹介しつつ、

  • 人的な活動(交通の往来や人々の通行、大きな催事の開催など)によって振動が起こり得ること
  • 特定の状況下(文献の中では一つの場所に大勢の人が集まって声援を送ったり飛び跳ねたりすることが例に出されていました。)では地震計がそういった人的活動による振動を記録しうること
  • グラフではドイツvsメキシコの試合が始まる前に人的活動による振動が若干減っているように見えるが、これは交通量が減ったためであると考えられること
  • また同試合中にメキシコがゴールを決めて以後、人的活動による振動が増えたことがグラフから読み取れること

等々が言及されていました。

また同文献の中では、ドイツvsメキシコ戦が行われていた同じ時間帯にメキシコシティより北に位置するイダルゴ州とメキシコ州の間で発生していた2つの地震についても述べられており、2つの地震の詳細について書かれているとともに、W杯ドイツvsメキシコの試合とは全く関係が無いものだったと述べられています。

*4. Twitterのモーメントにも当日のことをまとめています。興味のある方はご覧ください。

*5. スペイン語で朝鮮のことをコレア(Corea)と言います。(そのため、「韓国」と言いたい時はだいたいCorea del Sur(コレア・デル・スル、「南の朝鮮」)と言います。)

 

参照文献

<西文>

・Darinka Rodríguez, 2018, “¿Realmente hubo un sismo ‘artificial’ con el gol de México a Alemania?,” Verne México en EL PAÍS, México, (Retrieved July 31, 2019, https://verne.elpais.com/verne/2018/06/17/mexico/1529254928_212160.html).

・MILENIO DIGITAL, 2018, “‘Sismo’ en CdMx no fue por festejo de México vs Alemania,” Milenio, la Ciudad de México, México, (Retrieved July 31, 2019, https://www.milenio.com/deportes/sismo-cdmx-festejo-mexico-vs-alemania).

・SSN, 2018, “Reporte especial: Sismos del 17 de junio de 2018, Cuenca de México (M2.5 y M2.7),” Servicio Sismológico Nacional, Universidad Nacional Autónoma de México, México: Servicio Sismológico Nacional, Instituto de Geofísica, (Retrieved July 31, 2019, http://www.ssn.unam.mx/sismicidad/reportes-especiales/2018/SSNMX_rep_esp_20180617_CuencaDeMex_M27.pdf).

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です